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漫画 アウトプットレビュー  『天地明察』 いっき読み推奨 現代とシンクロする江戸時代

 江戸時代の実際の人物がモデルなっていて、名前は安井算哲(やすいさんてつ) 別名 渋川 春海(しぶかわ はるみ、または、しぶかわしゅんかい)。人生を数学と暦と天文にかけた囲碁棋士であり、歴史を塗り替えた渋川春海、個人としての物語。槇えびしという漫画家をはじめて知りましたが、描き方が巧みで、お世辞抜きに、素晴らしい作品でした。全九巻。

 

 原作は沖方丁うぶかた とう、おきほうちょうではない)の小説天地明察(上) (角川文庫) 天地明察(下) (角川文庫)で、岡田准一主演の映画にもなった。

   

 渋川春海は、徳川幕府お抱えの囲碁打ちの専門の家元に生まれ、安井家の二代目当主で、幼いころから囲碁の神童と呼ばれ、数学、天文学、暦学、神道などさまざまな学問を学びながら育った。

 

 京(京都)生まれで、春と夏は京で過ごし、秋から冬にかけて江戸でお城に奉公という、でに行ったりして生活していた。天文観測もはじめは、まったく趣味的なものだったようで、実に楽しそうである(実際は知らないが)。挫折の多い人生だったようだが、囲碁を打ち、学問をし、人に恵まれ、偉業を成し遂げ、結構いい人生ではないか。と思うのは私だけではないのではないか?

 

 徳川家に仕える囲碁の家元というエリートでありながら、さまざまな学問に通じ、数学と天文学の趣味が高じて、暦まで作っちゃったすごい人。といえなくもないが、関 孝和をはじめ、ほかにも学問に長けた人は渋川春海以外にもいたわけである。なぜ渋川春海なのか?なぜ必要になったか?物語を前半広範に分けるとすれば、このあたりからが後半で、話の肝にもなってくる。

 

 囲碁棋士としての安井算哲は、将軍の前で、対局を見せる上覧碁という御城将棋(おしろしょうぎ)や、お偉方相手相手や、あちこち招かれて指導碁を打ったりして、囲碁の普及に努めたりすることだった。ライバルには、歴代本因坊(ほんにんぼう、ほんいんぼう)の中で特に特に名人とたたえられる本因坊道策(どうさく)がいた。

高度な数学 明察と暦について

  天地明察の明察とは物事の心理を見抜くことである。安井算哲たちが数学問答をして、正答をすると、明察。と使われている。

 

 数学は和算と呼ばれ、庶民の娯楽としてあるいは数学道とも言える、ものごとを究めるためのひとつ道であった。そして江戸時代を通して高度に発達している最中だった。同時に、和算はクイズやパズルのようなもので、競技的な側面もあって、大いにはやった。春海もある意味では普通の人だった。数学でのライバルは、世界的な数学者、関 孝和がいて、渋川を囲む人間の層の厚さが伺える。

 

 江戸時代初期に日本で公式に使われていた暦は9世紀の唐でできた宣明暦だった。外国の800年の前の暦といわれれば、今の感覚で考えれば、誤差がすごいことになっているだろうなと当然想像がつく。誤差は現実と2日ずれていた。春海たちは、暦を作るために、天と地の理を知る必要があった。

暦作りとは時代つくり

 それじゃあ、今までの暦は間違っています、正確な暦を作りました、といったところで、当時暦を作ることは帝や朝廷、陰陽師たちの野専門分野であり、自分たちの権威が危うくなる。利害関係者もたくさんいる。武士である春海が、改暦することは、抵抗は大きい。

 

 逆に言えば、リターン大きなものが期待できる。

 

 暦づくりの必要性大げさではなく、新しい時代を作ることに他ならなかった。社会的に、世の平和のために、大きな意味があって『2日のずれ』以上の必要性に迫られたものだったということ。それに気がついたのが、この『天地明察』では会津藩保科正之となっている。実際の保科公も、名君でだったようで、史実かもしれない。

 

 レビューするにあたって、もう一度ざっと目を通してむると、この漫画、タイムリーなんじゃないかと思ったのでした。江戸時代同様に、何か新しい変化が必要な現代。今の『大和暦』あたるものは何かと、考えてみた。

まとめ

 渋川春海が登場する文学作品はいくつかあり、いろいろな絵がかれ方をするのだろうが、この天地明察では、飄々としたキャラクターで描かれていて好感がまてます。物語の前半はストレートな青春もの。後半は込み入っていきながら、どんどん展開していくので、中だるみがなく、描き方が巧みで、読み疲れしませんでした。  

 

 囲碁とか、算術とか、暦つくりとか、はたまた政治の話とか、完全に理解しようとするのは、骨が折れるけど、わからなくても、ストーリーを追うには、特に問題なくすっと入ってくる。物語は、途中息切れすることもなく、最後の最後まで上り続けてのエンディング。読後感が本当に素晴らしいんですけど!!!