真夜中にわき上がるハレルヤ

無軌道という方向性

これは読むべし2巻完結のギャグ漫画『秋津』 売れない中年漫画家、父子家庭の悲哀を知れ

 

 主人公?の秋津薫と中年漫画家と、いらかという、平成の子らしい名前の息子を中心にごく限られた人間関係の中で話し師が展開してくギャグ漫画である。
息子いらかはしっかり者であるのは、父秋津が人として至らないが故であり、またそれ故にキモチワルく、ジタバタしたり、ひねくれてしまうという悪循環に陥ってしまう
ただ確かにそこにはギャグが生まれてしまう。
そしてクソミソの土壇場から生まれる秋津の言葉は、真実味がありキャッチーだ。


 秋津を読み始めてすぐ分かることが2つある。

 

 一つはこの漫画がオマージュが散りばめられている点である。すべての出典元はわからないが、一巻一話目であの有名アニメが唐突に取り入れられているところからもよく分かる。一話ごとの表紙の絵も、おそらく、というのは、全部の出典がわからないからだが、映画のポスターというかジャケット写真?のから取られている。

 

 一巻のその2の表紙は映画ゴッドファザーでポスターからきている。(その1の表紙の絵はわからない)

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The Godfather ポスター>

(一巻その2では上の絵をもとに表紙が扉絵が描かれている。他の元ネタを探すのもいいだろう)

 もう一つは作者・室井大資氏の鋭い独特な観察眼と感性、描写力の高さである。
この感じ、どこかで見たことがある気がすると思わせられるのは、名前は思い出せないが有名な、みんな知っているあの作品、『ほらアレの、あそこに出てたアノ人』が多いからなのかもしれないが、エピソードだけではなく、人物の顔、表情の見たことあるような気がする感に納得してしまう。キャラクターの設定が絶妙でこういう人いそうと思わせてくれる。もしかしたら全部実在の人物かもしれない。

 世の中には色んな人がいるようで、人間のバリエーションなど限られていてだいたいみんな同じような現実を生き、似たような事しか知らないのではないかとまで考えさせられてしまう。

 画のタッチや、構図を見ると、効果を見ていると、普通の商業漫画のようにスムーズで読みやすくを逸脱していることは明らかである。かなりガチャガチャしている。見やすくはないかもしれない、引っかかるようにしているのだから。

 こういう性質なので実験的にならざるを得ない、はじめから実験するつもりであったと思われるが。実験なんかするつもりはない、何を言う全くの正道ではないか、と作者におこられてしまうかもしれないが。

 ギャグとはつまり、みんながしってるあのセリフや、あのシーンあの場面、大げさな表現で、ある種の場違いを意図的に引き起こすことで、理屈を追い越して笑いにするのである。そして、あくまでも知っていることをネタにしなければならいない。

観客の知っていることや理解度を予想し、どれだけ突っ込んでいくかのさじ加減が鍵になるわけだ。元ネタを知らない場合ポカーンとしてしまうのは避けられない。秋津の場合わからないことの方が多い。主だったものは、わかる物も多いが、読者はぶん回されることだと思う。それでいい。わからなくても絵の力がある。秋津の気持ち悪いひねくれ方は爽快だ。

 秋津の以前にもギャグ漫画を描き、独特な表現で一定の支持を得ていた作者であるが、いま一度ギャグ漫画とはなんなのかに立ち返るために、秋津で描いたに違いない、きっとそうだ。


 2巻で完結したのは残念だが、この種のストーリーを作り続けていくのはたぶんとても大変でだっただろうし、結果的にはちょうどいいボリュームになったのかもしれない。

 


 なお現在秋津の作者の室井大資氏は、寄生獣(3巻まで無料で読める)やヒストリエ(2巻まで無料で読める)の作者の岩波均原作レイリの漫画を描いている。時代物で秋津とは趣が違うが、こちらも室井氏の描写センスが光る作品なので、秋津にピンときたらチェックしてほしい。